未だCSMS/SUMSへの道半ばではあるが、藤本先生に耳を傾ける

前回までのCSMS/SUMSまとめ

前回までで、これからの自動車業界を取り巻くセキュリティについての大まかに理解するという、目下最大のゴールには辿り着けたと考えています。特にCSMSとSUMSについて、わたしなりの平易な文体で解釈し記載できたことは、わたし自身の理解はもちろんこれからこの分野に触れようとされている方にとって、容易な第一歩になることを期待しています。

CSMSは以下の3つの記事でまとめました。

SUMSはこちらです。

アプリオリに理解できる部分の多かったSUMSはともかくとして、CSMSについては、わたしのようなセキュリティ音痴の者にとって初めて触れる用語も多く、MONOistの記事を参照しつつ粘り強く噛み砕いてみたつもりです。

アフターコロナ時代の日本企業のサプライチェーン

まだまだ詳細な理解には程遠いことは承知ですが、今回は脱線させていただき、年末に拝聴した東大の藤本隆宏先生のセミナーに触れたいと思います。年内最後の下記でも触れましたが、「アフターコロナ時代の日本企業のサプライチェーン」と題するオンラインセミナーに参加しました。

藤本先生の講義を初めて2時間余り聞かせていただきましたが、著作に書かれている内容も要所要所で見つけることで、これまでの自身の理解を改めて見直すことができました。さてセミナーの全容は簡単にまとめることはできないので、幾つかポイントを書き連ねてみたいと思います。

  • 売り手良し(利益)、買い手良し(顧客満足)、世間良し(雇用安定で地域貢献)となる「三方良し」の経営哲学と、トヨタ方式の組織能力を組合せて、サステナブルトヨタ方式を生み出す
  • サプライチェーンを、平時は競争力ファーストで、緊急時は災害対策(頑健性)ファーストで維持(代替生産能力/代替設計能力)し、柔軟かつ迅速にスイッチする
  • サイバーフィジカルシステム(CPS)を絡めた低空(サイバーフィジカル層)戦の本番が2020年代であり、低空戦は上空(ICT層)のネットワーク力と地上(現場・現物層)の現場知のバランスが重要であり、ネットワーク力の過信は禁物、逆に地上に引き籠っていても商機は少ない

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セミナー「アフターコロナ時代の日本企業のサプライチェーン」資料より

内容盛り沢山の講義でしたので、全てを理解しきれたわけではありませんが、わたしなりに重要ポイントと解釈した点は上記となります。サステナビリティが声高に叫ばれているが、そもそも日本は三方良しの経営哲学を持っており、コロナ禍においても充分にその哲学は活かされていることを、工場の停止期間の短さ等を例に取り強調されてました。サプライチェーンにおいては、CPSの利用を強く主張されており、グローバルに需要/在庫/生産能力はもとより地域の情勢や災害状況も加味した、最適化のためのシミュレーションを常に実行できる環境を整えるべきとのことでした。無論自社だけでなく、国内拠点だけでもなく、広くサプライヤーや他国生産拠点等の状況もCPSで捉えておくことで、アフターコロナの頑健かつ柔軟なサプライチェーンを構築すべし、というのがわたしなりの理解でした。

また幸いなことに藤本先生に直接質問させていただく機会を得たので、かねてからわたしが漠然と考えていた懸念を伺ってみました。

GAFAのようなモジュール化を得意とする企業が、日本の製造業、特に自動車会社が培ってきた統合型・擦り合わせ型のものづくりでなければ作れないような製品を駆逐してしまわないでしょうか?

という問いに対して以下のようなポイントを指摘下さいました。

  • GAFAは基本的に重さの無いcyber-to-cyberの「上空」企業だが、 ここはオープン・アーキテクチャ、標準インターフェース、補完財間のネットワーク効果、ビジネスエコシステムの巨大化、マッチングによるアセット稼働率向上、マッチングデータ独占などによりメガプラットフォーマーが恐竜化した世界である
  • 2020年代に本格化する、上空と地上を連結するcuber-to-physicalの「低空」戦は、上空のネットワーク効果と地上の深いアセット知識のバランスが重要で、今のGAFAのケイパビリティだけでは戦えない(上空出身のプラットフォーマーはアセット知識獲得が、地上出身のマニュファクチャラーは上空のネットワーク力獲得が必要)
  • GAFAの内、appleは確かにメガプラットフォーマーだが、売上のほとんどは巨大な補完財であるiPhone等から来るビジネスモデルで、若干トヨタ的な性格もあり、他のGAFAとは性格が異なるので要注意

藤本先生がサプライチェーンにおけるCPS活用を強調されていたこととも重なるかなと思いますが、きれいにロジカルに作り上げられている、もしくは作り上げることが可能な上空のcyber-to-cyberの世界とは違い、複雑で論理的でない部分も多々ある現場・現物の世界へGAFAは降りてくるわけではなく、既存企業との提携は大前提となる、と理解しました。(ただしappleはモノを持っているため要注意!!)

もう10年以上も前にはなりますが、シーメンス社とお仕事をさせていただく機会があったからだと思いますが、確かにこの「低空」を考えた時、真っ先にイメージしたのがシーメンス社であり、MESのパッケージ製品でした。各設備のPLCから情報を抜き取り、治工具の耐久性を確認したり、または醸造タンクの温度の上げ下げが適切に行われたかを確認したり、人が目で確認していたことをITで見える化し実績を分析しネクストアクションへ繋げる、そんなデジタルファクトリーを構築しましょう、みたいな提案をやっていた記憶が思い出されます。随分前からコンセプトだけはあったものの実現手段を見つけられなかったものが、GAFAのような上空に強い企業の登場により、やっと上空・低空・地上の役割分担ができ、現実味が出てきたのだなと思います。

今回はブログタイトルからは脱線してしまいましたが、広く自動車に関わる部分であったのでご容赦下さい。また今回はさらっと流してしまいましたが、サイバーフィジカルシステム(CPS)については、次回以降もう少し事例含めて見ていきたいと思います。